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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

偽学生証と本物の学割証

                 ≪九月十六日≫     -壱-

  死んだように眠ったにしては、朝早く起きてしまった。
 緊張してる・・・・・・って事?
 昨夜、シャワーを浴びたせいか、気持ちの良い朝だ。
 午前8:00。

  すぐ、旅の支度をして宿を出る。
 宿の前で輪タク(1.5Ru≒50円)を拾い、パトナのレールウエイ・ステーションへ向かった。
 昨夜は真っ暗な夜道の為、何処をどう通って来たのか、まるで分っていなかったから不安ばかりで、緊張していたけど、こうして朝を迎えてみると不安などどっかへ吹っ飛んでしまっていた。

  とにかく、インドへ入ってからと言うもの、もう見られっぱなしだ。
 睨み返しても、目を反らすでもなく、全く表情を変えずジッと見てくるのには、困ったを通り越して、不気味としか言いようが無いほどだ。
 旅の途中、他の旅行者に聞いた事がある。
   ”インド人に何か聞いて、答えてくれたとしても、決して鵜呑みにしてはならない!”とか。
   ”インド人はイエスの時、首を横に振る習慣がある。”とか。
 そうした、いろんな習慣の違いが、いろんなトラブルを起こすし、インド人の無表情な顔立ちが、旅行者の不安を助長しているのかも知れない。

                   *

  パトナの駅は大きかった。
 駅の構内を歩き回った後、バンコックで入手した偽の学生証を使ってみようと思いつき、・・・・・と言うのも、インド国鉄では学生割引が50%以上だと聞いていたから、・・・・インフォメーションで聞いてみる事にした。

       俺 「すみません。学割は効きますか?」

  東京大学の学生証を見せる。
 東京の大学ではない。
 今俺は、東京大学の学生になっているのだ。

       係員「ノー!」

  インド特有のブロークン・イングリッシュで捲し立ててくる。
 怒っていっているのではないのだが、怒っていっている様に聞こえるから始末が悪い。
 英語が堪能な俺には、まるでインドの英語は理解できない。
 しかし、だからと言ってこのまま引き下がっていては、インドの旅など出来ないというもの。
 落ち着いて、ゆっくりと話す。

       係員「クソ!この日本人、英語も満足に喋れないくせに、話し掛けてきやがる!!」

  そう思っているに違いない。
 しかし、そんな事に気にしていてはやってられない。
 気を強く持って、相手が根負けするぐらい粘って聞く事にした。

       俺 「学割が使えないなんて、おかしいじゃあない!」
       係員「わかった!分った!学生証の割引は、プラット・ホームの端にある事務所で取り扱うから、そっちへ行け!」
       俺 「どっちの端だ?」
       係員「あっちだ!あっち!」

  せっかく、金かけて作った学生証や!元はとらな・・・な!
 係員に教えられたとおり、線路に沿って歩く。
 かなり大きな駅なので、歩く距離も半端じゃない。
 まさか?嘘教えられたんじゃ・・・・ないだろな。
 不安が過ぎる。
 重い荷物を背負っての歩きは、ちょっとこたえる。

  事務所をやっと見つける事が出来た。
 これだ!
 事務所の中に入る。
 受付で、書類を貰って、英語で文字を埋めていく。

       俺 「これで良いか?」
       受付「OK!」

  暫くして、インド国鉄の学割証を持ってきた。
 学割証を受け取る。
 東京大学の学生に与えられる、学割証が手に入ったのだ。
 ”もうこれは時効なので、貧しい旅行者が仕方なく行った事なので、皆さんは真似をしてはいけません。”
 
                *

  駅に戻る。
 窓口へ。
       俺 「デリー、一枚。」
 しっかりと、学割証を見せる。
 学割証は本物なのだ。
 偽物ではない。

  デリーまでの切符を購入。
 42.5Ru(1445円)。
 切符を持って、パトナ駅のホームに入る。
 上を見上げると、四角いケースの中で、空港でよく見られる文字盤が、カタカタと音を立てて動いている。
 列車が出るたびに、そのホームの列車の行き先が変わっているのだ。
 動きが止まると、何番線はどこそこ行きと、終点の都市の名前が現れる。

  インドの地図を持っていない為、書かれてある都市の名前が、どの線なのかまるで分らないから始末が悪い。
 誰でもいい、聞いてみる事にした。

       俺 「スミマセン!この線はデリー行きですか?」
       係員「・・・・・・・。」
       俺 「スミマセン!この汽車はデリーまで行きますか?」

  英語を喋れそうな人を見つけては、こんな質問を繰り返すが、とにかくいろんな返事が帰って来て、どれが本当なのか宝くじを買うようなもんだ。
 おい!本当のことを教えてくれよ!
 国鉄の制服を着た人に訪ねると、インドなまりのブロークン英語でペラペラと話し掛けて来る。

       俺 「パーデゥン??」

  聞こえにくかったので、もう一度お願いしますと言うが、二度と同じ事を・・・・いや、一度言ったきり二度と口を開こうとしないのには参ってしまった。
 だからと言って、一般の人に聞くと逆に今度は親切すぎて、いろんな違った答えが返って来るので、どれを選択するのか困ってしまうのだ。
 一説によると、よそ者に何かを聞かれると、変なプライドがあって、知らない事でも知っているように嘘でも教えてしまうらしい。
 この手の人種には、ほとほと困らされることになる。

                    *

  この線に違いない。
 そう決めた。
 いろんな人の意見を聞いて、俺が決めたのだ。
 列車がやって来た。
 列車に乗り込む。
 昨日の恐怖列車と違い、中は空席が目立つ。
 目の前の人に、また聞く。

       俺 「スミマセン!この列車はデリーまで行きますか?」

 俺の素晴らしい英語が通じないのか、俺の英語がまるでダメなのか、まるで反応がない。
 列車が動き出し、Arrah駅までは確認できたのだが、それから後何処をどう走っているのか、検討がつかない。
 簡単な地図に載っている筈の、大きな街を全然通らないのだ。

       俺 「本線から外れてしまったのかな?どこかで乗り換えなくちゃ・・・なんなかったのかな??」

 まあ!とにかく列車は走っているのだから、南か西に移動している事には違いないではないか。
 何処へ行くにしても、着いたところから又、旅を始めれば良いじゃあないか。
 そう思うことにした。
 この列車が着いたところから、またデリーを目指せば良い。

  途中、道路と並行して走っている頃は、水浸しの田園風景。
 そこから、低い山の見える山岳地に入った。
 地肌の見える丘がいくつも見えてきて、頂上には昔栄えた城壁の跡だろうか、土色の建物が壊れたまま放置されているのが見える。
 この広漠とした所に、人が、家並みが、家畜が、ポツリ・ポツリと見え隠れしては、通り過ぎていく。
 快調な列車の旅である。

       俺 「そんなに急がなくても良いよ!」

  そう思いたくなるように、列車は駆け足で走っていく。


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